○ 全く、少しも、まるで、まるきり(後に打ち消しや否定的表現を伴う)
「支払い額が全然足りない」
「納期までに全然間に合わない」
○ 全て、すっかり、あますところなく、ことごとく(後に肯定表現を伴う)
「息子は、全然納得した上で決断したのだと思う」
「今から部屋に行っていいかと訊くと、彼女は全然いいよと答えた」
△ 非常に、とても(後に肯定表現を伴う)<
「このカレー、全然美味しいよ」
「ここから見る景色は全然美しい」
意味1「全然(全て・すっかりの意味)+肯定」と、意味2「全然(全く・少しもの意味)+否定」の使い方は正用です。
程度の強調を表す意味「非常に・とても」も辞書に載り始めていますが、意味3「全然(非常に・とても)+肯定」は俗用扱いされています。同じ肯定表現でも「全然(全て・すかり)+肯定」とは分けて考えるべきで、まだまだ正用とはいえません。
また、現状では意味2「全然(全て・すっかりの意味)+肯定」の用法も、各種試験では不正解にされてしまう可能性があります。試験・面接などで使うのは控えた方がいいでしょう。
「全然+肯定表現」は誤用という迷信が広がった経緯
これまで「全然」という言葉は、後に打ち消しや否定的表現を伴う副詞だと考えられてきました。しかし、新野直哉准教授をリーダーとする研究班の調査によると、「全然+否定」という迷信(規範意識)は昭和20年代後半から急速に広がったようです。
同研究班は昭和10年代の学術的な専門誌の中から、日本語の知識が深い研究者達の文章を採集しました。それらを調べてみると6割が肯定表現を伴っており、著名な国語学・言語学者達も否定的表現を伴わない使い方をしていた事が判明しました。
多くの国語学・言語学者達が単純な誤用をしていた可能性は、かなり低いです。
しかしそれらは「全て・すっかり」の意味で用いられており、「非常に・とても」の意味は最近加わったものです。
通俗的な使い方である「非常に・とても」もいずれ正用とされるようになるかもしれませんが、今のところは誤った用法といっていいでしょう。
また、飛田良文・日本近代語研究会会長の調査では、昭和10年代までに出版された国語辞典に、「全然+打ち消し・否定的表現」を説明する記載が見あたらなかったといいます。
元々「全然」は語義が1つでしたが、昭和27年に刊行された『ローマ字で引く国語新辞典(福原麟太郎編)』で初めて2つの語義が載りました。「英文学者である編者の福原麟太郎が英語の知識を利用して『not at all』『wholly』の意味に合わせて語義を2つに分類した」(飛田氏)と考えられます。
その一ヶ月後に刊行された辞書『樹海(金田一京介編)』で、「必ず打ち消しを伴う」という規範が初めて示された可能性が高いです。以後、「全然+肯定」を誤用とする辞書が一気に増えていきました。
余談ですが、「全然」の輸入元の中国でも「否定と呼応しなければいけない」という迷信が一部にあるようです。
上述した研究成果は、まだまだ一般に認知されていません。相手や状況によっては、正用の「全然(全て・すっかり)+肯定表現」を使わない方がいい場面に出くわす事もあると思います。
「全然」の用例
「一体生徒が全然悪いです」
「全然関知せざるもののごとく装い」
「全然、自分の意志に支配されている」
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